「シニアのための市民ネットワーク仙台」は、「高齢化問題」について、さまざまな角度、さまざまな立場から取り組んでいる。本プロジェクトは、財団法人長寿社会開発センターの助成を受け、高齢化と情報化、NPO(非営利組織)と情報化の二つのテーマを念頭に取り組んだ。

 高齢化問題は単に高齢者にとっての問題ではない。世界に例を見ない急速な高齢化の進展に伴い、世代を超えた重要なテーマになっている。特に、定年退職者や子育てを終えた女性が地域社会との関係を取り結ぶ際に、パソコンやインターネットに代表されるマルチメディア技術を活用できる社会環境を作り上げることが必要である。

 本プロジェクトは「高齢化」および「NPO」と情報化の関係を探るため、①パソコン教室②インターネット教室③関連レポート「市民(組織)からの情報発信」の作成ーの3点にわたって取り組んだ。実施期間は平成9年4月から平成10年3月まで。

(1)パソコン教室
 習熟段階に合わせて2つのコースを設定した。講師は「シニアのための市民ネットワーク仙台」のメンバーと、その活動理念に賛同する外部の協力者。プロジェクト実現の過程で、外部の協力者とのネットワークをつくることを併せて目指した。
●パソコン体験ゆったりコース
 内容:あくまでインターネットのホームページを見たり、パソコンインターネット通信を行いたい方のための初期講座です。パソコンの立ち上げ、終了およびマウス操作や簡単なワープロ(ワークス・ワード)の習得
 定員:1コース4人、時間:午前コース(午前10時半ー)と午後コース(午後1時半ー)
 料金:1コース3回で3,000円 

●パソコン覚えるまでコース
○内容
 体験コースまたは、シニアのパソコン教室を終了した方で復習を兼ねて基礎をマスターしたい方
 定員:1コース4人、時間:午前コース(午前10時半ー)と午後コース(午後1時半ー)、予約制:1回90分。午前、午後各4人

○実績
 参加人数   100人・日 
 参加講師    25人・日
●浮き彫りになった問題点
①画面のつくられ方、マウスを使った操作などに、高齢者を結果的に排除する要因が存在する。高齢者を「情報弱者」にしないためには、高齢者が使えるユーザーインタフェースを実現しなければならない。
②受講者によって、レベルの違いがあった。それを乗り越えながら研修を進めることには、予想をはるかに超えたエネルギーを必要とする。
③パソコンを操作する上で、ローマ字入力は必須と思われる。研修では受講者のためらいも予想されたが、あえてローマ字入力を基本とした。その結果、研修の入り口で頭を抱える人も出た。個別の対応で問題をクリアすることができたが、今後の検討が必要。
 ただし、入力方法を二通り準備するには、研修に必要なマンパワーがそれだけ余計にかかる。なかなか難しい問題である。
④マウス操作に不慣れなため、不必要なところでクリックを繰り返す結果、複数のアプリケーションが立ち上がってしまうケースがあった。
⑤ウィンドウズの最大の特色である、複数のアプリケーションを同時に動かす機能が、高齢者にとっては、過剰な機能になることがよく分かった。ウインドウズの中に、「単機能指定」のような機能があれば、ベターかもしれない。つまり、ボタンクリックひとつで、単機能操作用に変われば、ワープロならワープロ、表計算なら表計算しか動かない機能があって方がいい。その他の余計なメッセージ、ボタンの類は、すべて見えなくなることも必要。
⑥ペイントブラシが好評だった。文字や絵が自由に書けて、色や大きさも変化する仕組みを体験することで、パソコンの可能性や楽しさを直感的に理解できたのではないだろうか。
⑦高齢者にとってのパソコン研修は、高齢者に特有のさまざまな問題が発生する。マンツーマンの指導にあたったボランティアにとっても、新しい経験の連続だったが、重要なのは「根気と忍耐力」。ビジネスベースのコンピューター教室では、対応できない分野であることを確認できた。

(2)インターネット教室「パソコンわいわいサークル」

○内容
 インターネット、電子メールで遊びながら活用法を考えましょう。
○実績
 参加人数  30人・日
 参加講師   8人・日
 12月から3月まで月1回、合計4回実施した。インターネットの基礎から始まり、アクセスの仕方、WEBサーフィンの方法などについて実習。ホームページの作成や電子メールの使い方についても、基礎的な実習を行った。
 シニアネット仙台の中心メンバーである60代の男性や女性ら、PCやインターネットが初めての人でも取り組みやすいように、マンツーマンの実習を基本とした。
 そのため、参加人員は1回当たり3人から15人と、実習内容によって幅があったが、インターネットの初心者、とりわけ高齢者らが、つまづきやすい点がよく浮き彫りになった。
 インターネットを中心とするマルチメディアの発展が「情報弱者」を生み出さないようにするために、市民活動団体として、今後、どのように取り組むべきかを考える上で、貴重な経験が得られたことを、まず報告しなければならない。
●浮き彫りになった問題点
 受講者らとのミーティングや実習を通じての意見交換を通じて浮き彫りになったポイントは以下の通りである。
①インターネットに取り組みたいと考える高齢者らは、既にパソコンやワープロを使っている人々が多い。全くの初心者は少なかった。パソコンに代表される電子機器の可能性に少しずつ気付き始めた層が、インターネットへの関心を示す。
②しかも、インターネットについては、パソコンでワープロやデータベースを使うのとは、全く異なる期待感を抱いている。つまり、インターネットには、情報を広く発信したり、受信したりする魅力が存在することに、高齢者らの多くが気づいている。
③あるツールを使うことで、情報受発信がより深く、より広く行われる可能性は、高齢者にとっては、若い世代とはまた別な意味合いがある。
④恐らく高齢者にとって最大の不安は、自分が社会から取り残されることである。定年退職後の男性、不幸にして生涯の伴侶を失うことへの不安感を抱く女性にとって、その思いは特に強い。
⑤インターネットによる情報の受発信が可能になれば、地域社会との結び付きをあらためて構築し、または、それまでの人間関係を超えた、新たなコミュニケーションのきっかけをつかめる可能性がある。
⑥そうした新たなコミュニケーションのきっかけをつかむための道具として、電子メールに対する関心を示す高齢者が多い。今回の実習では電子メールに十分な時間を割くことが必ずしもできなかったが、今後、同様のプランに取り組む上で欠かせないポイントである。
⑦インターネットはまた、高齢者が持つ個人的な趣味や関心の世界を、ホームページの形で表現するチャンスを提供する。実習の中で取り入れた「ホームページをつくってみよう」のセッションは、高齢者らの趣味の世界「一人一芸」を、ホームページ上に展開するための、きっかけとする狙いがあった。
⑧実習では「狛犬(こまいぬ)の写真撮影」や「短歌」に取り組んでいる高齢者にモデルになってもらい、その作品を、インターネットに乗せることを試みた。実習ではデモ画面しかつくれなかったが、ホームページに「作品」が載ったときのインパクトについて参加者全員が共有できた。
⑨高齢者がいつまでも社会との接点や豊かな人間関係を保っていくには、自分が長い人生の間に培ってきた趣味や関心の世界をベースにすることが、最も無理ない姿である。「駒犬」や「短歌」を素材にインターネット上の「サイバーサロン」をつくりたい。今回の実習を通じて「夢」が膨らんだ。
⑩半面、高齢者らがインターネット利用を試みる上での問題点も数え切れないほど存在する。問題点と反省点・今後の方向性を特筆すれば
第1の問題点
 インターネットの仕組み・構造を理解することが難しい。
→要点を簡潔に押さえたテキストをつくる必要がある。
第2の問題点
 HTMLの理解が難しい。
→ホームページを作成したいという希望者への講座を別に設ける必要がある。
第3の問題点
 インターネットの活用法がよく分からない。
→インターネットで何ができるかのデモをいくつも準備する必要がある。複数のホームページをセットにしたデモ用ホームページをつくるアイデアが沸いた。早速、次の目標として設定する。
第4の問題点
 ブラウザの画面回りや操作方法が難しい。
→シンプルなデザインによるユーザーインターフェースを実現する必要がある。

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